同志社大学 一神教学際研究センター CISMOR

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中間選挙後のアメリカの政治と社会

公開講演会

第2プロジェクト公開シンポジウム

中間選挙後のアメリカの政治と社会

日時: 2011年01月15日(土)15:30−17:40
場所: 同志社大学今出川キャンパス 明徳館1階 M1教室
講師: 佐々木 卓也 (立教大学法学部 教授)
飯山 雅史 (読売新聞調査研究本部 主任研究員)
森 孝一 (神戸女学院 理事長・院長)
[モデレーター] 村田晃嗣(同志社大学 教授)
要旨:
 昨年11月に行われたアメリカの中間選挙で、とくに目を引いたのは、「建国の理念」(小さな政府)への原点回帰を説く、保守系の政治運動「ティーパーティ」の拡大である。
 1980年の大統領選挙でのレーガンの勝利から、アメリカ政治では「保守」優位の時代が続いたが、オバマ大統領の登場で本当に「保守の時代」は終わったのか(モデレーターの村田晃嗣同志社大学教授)。
 佐々木卓也立教大学教授は、オバマ政権の外交政策について論じた。まず、中間選挙前の2年間で“めざましい”成果はないが、このことはニューディール期以来の過去70年のほとんどの政権に当てはまること(例外はカーター政権だが、再選はかなわなかった)、そして、対露関係の改善や中東・イスラーム問題に対する積極的な関与、核拡散問題への国際世論の喚起など、いくつかの点で着実に成果を上げていることを指摘した。
 特に対外イメージの改善に果たした役割は重要である。ただし正念場は、過去の政権もそうであったように、中間選挙後の任期3、4年目である。アフガン・パキスタン問題(およびイラン問題)とイラク問題で、公約通りの成果を上げられるかが最大の焦点となる(とくにアフガンとイラクからの撤兵)。 しかし、景気回復の遅れや、議会内の強い党派的対立を考えた場合、現状維持が精一杯ではないかとの観測がなされた。
 読売新聞調査研究本部の飯山雅史主任研究員は、独自の統計分析の結果を駆使して、ティーパーティ運動と宗教保守層(福音派)との関係を説明した。まず氏が強調したのは、〈白人中間層の草の根運動〉という一般的な観察とは異なって、運動がかなり「党派的」であることである。第一に保守あるいは共和党支持であること、ついで福音派であることと、ティーパーティの支持者であることの間には強い相関が見られた。
 もう一つの注目すべき傾向は、政治的保守(小さな政府の支持)と宗教的保守(中絶や同性愛への反対)が、完全ではないが、政策としての一体化(パッケージ化)を強めていることである(1970年代には、そうではなかった)。このため、宗教的な保守層の多くが、小さな政府を掲げるティーパーティ運動になだれ込むことが出来た。
 ただし共和党は、無党派層の離反を招いた90年代後半の反省に立って、自党の主張・政策の過度の保守化を警戒している。選挙の帰趨を決するのは、過度のリベラルも行き過ぎた保守も嫌う、無党派層だからである。
 共同通信の会田弘継編集委員室長は、ティーパーティ運動の背景にある「言説と思想」に焦点をあてた。その主な要素は、政府からの自由を求める「リバタリアニズム」(アメリカの最も古い「保守」思想)と、権力エリートへの痛烈な不信感に基づく「ポピュリズム」である。
 アメリカ史では、景気の深刻な後退期に、政府からの「放任」を求めるリバタリアン的な衝動が盛り上がる傾向があり、現在はまさにこの状態である。
 同時に宗教保守層も、中央政府の肥大化が、自分たちの理念・価値観を脅かしていることを憂慮する点で、政治的保守との親和性を強めて、ティーパーティ運動に合流した(中絶や反・同性愛など、生活上の規制を好む宗教保守層は、本来リバタリアンとは一線を画す存在である)。
 結果的に共和党によって組織化されてしまったが、ティーパーティ運動の出発点が、ブッシュ政権による大企業救済への反発にあったことも強調し、今後もアメリカのこうした古い「理念」が、たびたび顔を出して、政治的混迷を導く可能性があるとの結論がなされた。
 同時に今回の中間選挙で最大の争点となったのは、宗教保守層の中でも、同性愛や中絶ではなく、経済・財政問題であった。「宗教右派はどこへ行ったのか」と問いかけた神戸女学院の森孝一氏が強調したのは、有権者の約4分の1を占める福音派の多様化である(「宗教右派」は、そのうち政治化した人々を指す)。
 森氏の推計では、ティーパーティのメンバーで、かつ同時に福音派であるのは、全有権者のうちの約5%である(あるいは宗教右派=全有権者の11%で、ティーパーティ運動に参加したのは約半数)。
 つまり宗教右派であっても、ティーパーティ運動に一致して参加したわけではない。また中間選挙では、福音派の中道派が多く支持する、中絶反対(pro-life)の民主党議員が、ティーパーティ運動の逆風のなかで、多数落選した。しかも、福音派全体の多様化は、それ以上である。大きく分けても、①魂の救済を重視して、政治に積極的に関与しない層(民主党支持が多い)、②中絶や同性愛などのドメスティックなイシューで政治に積極的に関与するいわゆる宗教右派、③貧困や温暖化、HIVなど、グローバルなイシューに重点を置く人々と、3つの立場が存在するからである。こうした状況で、宗教右派でさえ、ティーパーティ運動への参加率が示すように、共通の政治的課題や、次世代のリーダーを見いだせていない。
 このあとパネルディスカッションが行われ、アリゾナの下院議員銃撃事件や、2012年の大統領選挙をめぐって活発な議論が行われた。

(CISMOR特別研究員 中谷直司)
[概要] 2010年11月の米中間選挙で、与党・民主党は大きく議席を減らし、2012年のオバマ大統領再選にも危険信号が点滅しだした。この中間選挙で宗教や思想はどのような影響を果たしたのか? さらに、今後のアメリカ外交や日米関係はどうなるのか? 専門家による活発な議論が期待される。

【共催】同志社大学 アメリカ研究所、同志社大学 神学部・神学研究科 
【後援】共同通信社、読売新聞社、京都日米協会
シンポジウムプログラム