公開講演会
第2プロジェクト 公開講演会
英国における治安強化とイスラーム
Securitization and Islam in Britain
日時: |
2011年09月16日(金)14:00−16:00 |
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場所: | 同志社大学今出川キャンパス 講武館1階 KB104教室 |
講師: |
ムスタファ・カマル・パシャ(英国アバディーン大学教授・国際関係学科長) |
要旨: | |
欧州において、イスラームはどう語られているか。一般に、イスラームは反近代性と結びつけられる。近代は世俗的であるとの認識は自明視されている。一方、メディアでムスリムが取り上げられるときは、彼らの「超宗教」的な面のみ描かれる。結果、イスラームは反近代的と見なされる。 またイスラームは、暴力にも結びつけられる。実際には、宗教的暴力は存在しない。暴力を行使するものがイスラーム的な言葉を用いていても、暴力の真の理由は虚無主義や政治的抵抗などにある。 英国でイスラームがどのように表現されているかについての調査がある。それによれば、イスラームをテロと結びつけたものが30%以上だ。これに宗教・文化問題、過激派と結びつけたものがつづく。アメリカ同時多発テロ(2001.9.11)およびロンドン同時爆破事件(2005.7.7)は、こうしたイメージを強化した。ハンチントンが「予言」した「文明の衝突」は、9.11後、人々に流布し、行動に影響を与えることで、自己充足的に成就された。 レコンキスタ以降の欧州では、イスラームは「外部」から侵入し、問題を起こす、文化的宗教的な他者と見なされてきた。実際にはイスラームは常に欧州「内部」に存在し、大きな影響を与えてきた。また同じ欧州でも、イスラームは国によって多様である。 欧州のムスリム移民は住居、就職、社会的モビリティ等において差別を受けている。英国には約290万のムスリム(南アジア系中心)がおり、約1500のモスクがある。9.11、7.7以降、欧米ではイスラームが治安上の脅威と見なされるようになった。ムスリムは職を奪う存在として語られ、ムスリム家庭やモスクはテロの温床として語られる。これにより、イスラームは脅威であるとのイメージが創られていく。securitization(治安強化)には、ハードなものとソフトなものがある。アメリカでは、収容所でムスリムへの拷問も起きた。英国はこれに比べればソフトだが、ムスリムへの暴言や嫌がらせは増えている。 欧米や日本のメディアはムスリムをとりあげるとき、彼らを「超宗教的」「暴力的」存在として描く。そしてムスリム自身が、こうした欧米のまなざしによって自己規定し、それを強化するセルフオリエンタリズムが起きている。一方で、ターリク・ラマダーンがいうように、欧州的なムスリムも現われつつある。彼らは欧州で生まれた世代だ。彼らは欧州の言語を話し、自らを欧州の国家の一員と考え、永住することを希望している。彼らは、欧州的価値観とムスリムとしてのアイデンティティをあわせもつ。移民概念に変化が起きている。 欧州諸国は政策的に移民とどう関わってきたか。欧州の移民政策には、排除モデルと同化モデルの二つがある。前者は、問題を起こさない限り移民を受けいれるものの、権利の制限等によって一定の社会的排除を行うモデルだ。後者は、移民に対し、独自のアイデンティティを捨て、国民的なアイデンティティを受けいれるよう求めるモデルだ。だが、どちらのモデルもうまくいっているとはいえない。アメリカの「人種の坩堝」モデルも、9.11で失敗した。独首相メルケルは、多文化主義は失敗したと発言したが、ある意味これは真実だ。多文化主義は特定の集団を追い詰める面がある。 最近は移民内部の軋轢も起きている。英国で2011年夏に起きた暴動では、ムスリムがアフロアメリカンに殺害された。従来の白人対非白人という図式ではない。英国社会で一定の地位についた少数の移民と、そうでない移民の軋轢である。英国では社会的モビリティが欠如している。産業構造の変化で、英国では工業は成りたたなくなり、サービス業中心になった。サービス業に就くためには一定の教育が必要だが、移民社会ではその教育がうまくいっていない。 イスラームへの偏見をのりこえるには、近代化と世俗化の関係を再考する必要がある。世俗化を近代の前提と捉える限り、偏見は消えない。近代と両立する宗教はある。「アラブの春」が示唆するとおり、ムスリムを「超宗教的」な存在としてのみ描くのもまちがいだ。私たちは彼らの宗教的な面ばかり見ている。彼らの日常の生活を見ていれば、何を彼らが求めているのかわかったはずだ。 (CISMORリサーチアシスタント 杉田俊介) |
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※英語講演・同時通訳あり ※入場無料・事前申込不要 【主催】CISMOR 【共催】同志社大学 神学部・神学研究科 |
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講演会プログラム |