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内側から見た華人社会―神戸のキリスト教をめぐる繋がりと場の理解に向けて 

公開講演会

内側から見た華人社会―神戸のキリスト教をめぐる繋がりと場の理解に向けて 

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日時: 2015年10月23日(金)16:40-18:30
場所: 同志社大学今出川キャンパス同志社礼拝堂
(京都市営地下鉄烏丸線「今出川駅」下車3番出口徒歩3分)
講師: 王 柳蘭 (京都大学白眉センター/京都大学地域研究統合情報センター 特定准教授)
コメンテーター:原 誠(同志社大学神学部教授)        
要旨:
王氏は神戸の華人とキリスト教のコミュニティ形成を主題に講演を行った。神戸の華人は開港以来、商人達が長い歴史を形成してきた。華僑の人々は自身のルーツを大切にしており、宗教的には故郷で行われていた祖先崇拝、道教、関帝廟や孔子廟などの信仰を継承している。このように血縁・地縁関係を基盤とした社会が華僑の主な軸になってきた。
 そのため従来の日本における華僑研究ではキリスト教は可視化されてこなかったが、神戸の華僑社会には、神戸基督教改革宗長老会というキリスト教コミュニティも存在する。この教会は、中国伝道を行っていた米国南長老教会のマクラクリン牧師が、1949年の中国における体制転換を受け、米国への帰国途上に寄港した神戸で当地の華僑に伝道したことに始まる。1952年には、「中華基督教長老会耶蘇堂」として華人の教会がはじめて神戸に誕生した。当初は祖先祭祀などを重視する人々にとってキリスト教は縁遠く、華僑の集まる場へ積極的に赴き伝道を行うも信徒の獲得は容易ではなかったが、伝道に触れたことで、仕事も順調で宗教に全く関心のなかった裕福な華僑男性が妻子と共に受洗した事例もあった。現在では改宗した世代の娘が長老役を務めるなど、父系が重視される祖先祭司とは異なり、柔軟な継承が見られる。
 そして白人宣教師主導で礼拝堂の建設、幼稚園の設立などの基盤が作られた後、台湾からの牧師の招聘を契機に、1960年代以降は華人主導の教会が形成される。その改革の一つが礼拝における母語の重視である。中国語、台湾語にはじまり、その両方を解さない2世の華人の信徒が増えると日本語が加えられた。その後、1978年には中国語、台湾語、日本語、さらに英語を含めた4言語の聖歌が出版され、版を重ねて現在も使用されている。ただし長老や執事など組織運営に関しては、帰化した人も含め、いまだ華人系が中心となっている。
 1960年代に米国の長老派のアジア宣教区から、台湾系の単立教会としてではなく、日本基督教団への加入を打診されたが、招聘された台湾人牧師や大阪・京都の華人教会の人々と共にそれに断固反対し、華人だけでなく日本人、外国人に門戸を開くなどの方向性を打ち出した。そして1973年には教会名が「神戸基督教改革宗長老会」に変更された。その特徴は、「中華」という語を除き、それにかわって「神戸」という地名が加えられた点にある。すなわち、民族性ではなく在地性を強調し、開かれた伝道の展開を試みたのである。また既存の華僑の墓地である中華義荘とは別の地に教会墓地を設立し、華人でありながら独自の宗教とコミュニティを作るという選択を意図的に行った。信徒の中には、夫の病気と死の経験から家族の反対を受けながらも改宗した日本生まれの裕福な華僑の女性や、1980年代の中国の改革開放以降の政治的変化を受けて親とは違う環境の中で新しい信仰を選択する中国人留学生など、先祖の信仰との葛藤や断絶を乗り越える人達がいる。
 現在の課題として、中国語と日本語を両方できる牧師が求められるため、牧師の調達が非常に困難になっている点があげられる。教会を支える牧師の不在は大きな悩みであり、ここに外国で移民のコミュニティが信仰を維持する難しさがある。また神戸の華人教会では、牧師や教会側は長老派を維持するが、信徒側は必ずしも宗派にとらわれておらず、中国語という言語がベースになって、母語が通じあう教会として華人教会を選択しているケースもある。ただし言語が理解可能でも、信徒の信仰的背景も出自も多様であるため、説教で牧師の用いる事例と信徒の体験のズレも出ている。この他、単立教会として財政的基盤の確保、中国と日本の教会制度の違い、家族内での宗教の継承の困難や葛藤など様々な課題が生じている。そして台湾、中国、日本人の信徒の社会関係は、同じ教会に属していても政治的立場などを含め、一枚岩ではなく、世俗的な領域と折り合いや葛藤をへつつ聖なる場所としての華人教会の維持とその展開にむけての舵取りに苦心している。こうした教会における信徒の多層化は移民によって形成される信仰コミュニティをめぐる諸問題を反映し、神戸のみならず他地域の移民あるいは華人キリスト教社会との比較研究をする視座が与えられると述べ、講演を締めくくった。
 講演後、原誠氏のコメントおよび参加者との質疑応答がなされた。
(CISMOR特別研究員 朝香知己)
※入場無料・事前申込不要

【主催】同志社大学一神教学際研究センター
【共催】同志社大学神学部・神学研究科
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