同志社大学 一神教学際研究センター CISMOR

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【研究者・学生対象】第2回イスラーム学研究会

公開講演会

【研究者・学生対象】第2回イスラーム学研究会

日時: 2017年07月18日(火)15:00-16:30
場所: 同志社大学今出川キャンパス 神学館3階G31教室
(京都市営地下鉄烏丸線「今出川駅」下車3番出口徒歩3分)
講師: 四戸潤弥(同志社大学神学部・神学研究科教授/CISMORセンター長)
阿部泰士(同志社大学CISMOR特別研究員)
要旨:
まず、四戸氏から発表がなされた。ハラールは「神が禁じなかったこと」、ハラームは「神が禁じたこと」を意味する。原則としてハラールがあり、その中にハラームの規定が存在している構造である。両者の根拠は『クルアーン』である。ハラームの語法を『クルアーン』に求めれば、メッカのカアバ神殿などの「聖所」、また、豚肉の食の禁止、禁酒などの「飲食規定」、売買取引における利息、聖なる月の「行動規定」、捧げ物など「儀式規定」があるが、それらに共通しているのは、その領域と時間において人は禁を犯してはいけないということである。ハラームとハラールは『クルアーン』に明記されているので明らかであるが、実際的な適用については必ずしも明瞭ではなく、それを「判断(ファトワ)」することが法学者の伝統的な役割である。
 現代において、ハラールとハラーム概念が一般信徒レベルで膾炙されるに至った契機は、ユーセフ・カルダーウィーの『イスラームのハラールとハラーム』(エジプト、1960年)の出版である。初版によれば、これはアズハル大学(エジプト)の要請で書かれ、非イスラーム教徒にイスラーム教徒の生活への理解をもたらすことを目的とした。同書は広く受け入れられ、類書も多く出版された。内容としては、11の指針や、生活上のハラールとハラームなどが記されている。同書は、生活がイスラーム的であるか否かを考える上でのハンドブックになったが、先述のイスラームの伝統に反して、知識のない一般信徒が同書を指針に自身で判断することが批判された。マレーシアやインドネシアでは政府や民間のハラール認証機関があり、同書は『クルアーン』と同等に扱われているが、ハラールの認定に関しても、『クルアーン』と同じ権威を一機関に与えることになるので、中東では批判されている。イスラームの伝統法学では常に『クルアーン』に基づく具体的事案に対する判断が要請されるのであり、上記認証機関が世界各地で利用される飲食品や製品に対するファトワを独占することが懸念されている。食のハラールでマレーシアの認証があっても、中東では受け入れられないケースも多々ある。

 次に、阿部氏の発表がなされた。冒頭、阿部氏は、「利益を出すことは、それ自体が社会貢献の一種」だとして、産業振興の正当性を示した。続いて、ハラールビジネスの発生から展開、更に認証事業等の産業化に至る経緯を概述した。その際、日本のハラール事業支援の例を示したが、同時に、我が国の公益法人等によるハラール認証や、国・地方自治体によるハラール関連事業の問題点を指摘した。阿部氏は、日本においては、「宗教行為、若しくは当該宗教法人の目的に反しないハラール事業」(宗教法人等)、「宗教の教義を広め、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とするものでないハラール事業」(NPO法人等)、「宗教的意義をもたず、宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等の効果を及ぼさないハラール事業」(国、地方自治体等)など、ハラール事業について様々な概念が並存している状況であることを指摘した。
 インバウンドビジネスに関して、「日本政府の観光ビジョン(2020年目標値、2030年目標値)」の数値目標の実現手段の1つとして、ハラールビジネスが期待されている一方、その運用面における課題も多い事を示した。その一例として、「平成26年度『スーパーグローバル大学創成支援事業』対象大学」の大学生協食堂のうち、関西圏の食堂事業におけるハラール対応への取り組み等を含めた調査経過が報告された。
 最後に、アウトバウンドビジネスに関する例として、マレーシアが国家の強力な後ろ盾の下にハラール認証におけるハブ機関を目指していること、また、地域毎の平均月収の上昇率から、ムスリム人口が6割以上を占める同国全体においても、ハラールビジネスのターゲット層の所得が特に上昇している事が示された。また、既に現地で事業展開している日本企業のハラールビジネスの難点も指摘された。 

(CISMOR特別研究員 北村徹)

※研究者・学生(聴講生含む)が対象です。
※できるだけ事前に事務局へ申し込んでください。
rc-issin■mail.doshisha.ac.jp (お手数ですがメール送信の際■を@に変えてください。)

 
20170718ポスター