同志社大学 一神教学際研究センター CISMOR

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イランの核開発疑惑と核不拡散体制

公開講演会

第2プロジェクト公開講演会

イランの核開発疑惑と核不拡散体制

日時: 2010年07月31日(土)13:00−15:00
場所: 同志社大学 今出川キャンパス クラーク記念館2F 礼拝堂
講師: 木村修三(神戸大学 名誉教授)
要旨:
 木村氏の講演は、イランの核開発疑惑をめぐる諸動向を主要テーマとするものだった。02年の核開発疑惑発覚以前から、イランでは、アメリカ(王政時代)やロシア・中国(イラン革命後)の支援で核開発が行われていた。同国は70年の発足当初からNPTにも加盟している。だが02年8月、イランの在外反体制派が、イラン国内にIAEAに申告していない二つの核施設があることを暴露、イランが軍事目的の核開発を行っているのではないかとの疑惑が浮上した。その後イラン政府も未申告施設の存在を認め、IAEAの査察受け入れに同意する。
 査察の結果、ウラン濃縮実験をはじめとする活動を、イランが未申告で行っていたことが判明した。これを受けIAEA理事会は、03年9月、イランに核施設・活動の完全な透明性の確保と、ウラン濃縮・再処理関連活動の全面停止を求める決議を採択した。だがイランは、この決議がNPT加盟国に認められた核平和利用の権利を侵害するものとして強く反発。英仏独は事態を打開するため、イランと03年10月に「テヘラン合意」を結んだ(イランは平和目的の核開発活動の権利は有するが、ウラン濃縮・処理関連活動は自発的に停止する。また追加議定書に署名しその批准手続きを進め、批准前の暫定適用にも同意する。核疑惑解消後、英仏独はイランに核を含む諸分野で経済・技術協力を行う、という内容)。もっともイランは、追加議定書への署名と暫定適用には同意したが、ウラン濃縮関連作業は事実上継続した。そこでIAEA理事会が4回にわたりイラン非難決議を採択したところ、イラン側は激しく反発し、緊張が高まったため、英仏独は再び調停に乗り出し、04年11月に「パリ合意」が成立する(イランは自発的な信頼醸成措置として核濃縮、再処理関連活動を停止する。その停止は相互に受容できる長期協定のための交渉が行われている間継続する。長期協定にはイランの核活動が平和目的であるという客観的保障、イランに対する経済・技術協力およびイランの安全保障に対するたしかな保障を含む、という内容)。
 だがブッシュ政権の「悪の枢軸」発言への反発などから、イランでは保守派の影響力が増しており、05年6月に保守強硬派のアフマディネジャドが大統領に就任する。05年8月、英独仏がパリ合意に基づいた「長期協定」案をイランに提示すると、イラン側はその内容を不服として受け入れを拒み、核濃縮関連作業の再開と、追加議定書の暫定適用停止を決定、「パリ合意」は瓦解する。再度のIAEA理事会決議に反し、その後もイランが濃縮・再処理関連活動を継続し、追加議定書の適用も拒んだことから、06年3月にIAEA理事会は問題を国連安保理に付託した。安保理はIAEA理事会の決議事項を実施するようイランに求めたが、逆にイランは濃縮実験の成功を発表するなどの挑発的姿勢を鮮明にする。そこで安保理は06年7月、イランに濃縮・再処理活動を全面停止することを求め、従わない場合は制裁措置をとるとの決議を採択。その後もイランが濃縮活動を継続し、規模を次第に拡大していったことから、06年12月から08年9月までの間に、安保理はイランに対する制裁を4度にわたり決議した。
 一方イランは09年夏、燃料切れが見込まれた軽水型研究炉の燃料確保のため、IAEAに協力を要請した。これを受けIAEAは、イラン保有の濃縮ウランを減らすため、イラン製低濃縮ウランをロシアで20%まで濃縮し、それをフランスが燃料棒に加工するとのスワップ案を提示した。しかしイランはこの案を最終的に拒否し、IAEA理事会の非難を押し切って国内での高濃縮活動を開始した。イランへの制裁強化を求める声が強まる中、イランはトルコ、ブラジルと共同で、イラン製低濃縮ウランをトルコに移送し、米、露、仏、IAEAが濃縮ウラン燃料棒をイランに供給するという内容の宣言を行った。イランにトルコ、ブラジルが同調した背景には、欧米に有利な現行のNPTの「二重基準」に対する非欧米加盟国の不満がある。
 国連安保理は10年6月に新たなイランへの制裁を盛り込んだ決議を採択した。ただこの決議では制裁強化に消極的な中国やロシアに配慮し、エネルギー部門は制裁対象外とされた。一方従来アメリカが独自に制裁を行うことに批判的だったEUは、今回アメリカの意向に沿った制裁を実施することになった。この制裁には石油・ガス産業に対する新規支援の禁止、EU域内におけるイランの特定銀行の資産凍結と営業制限、イランの船舶・航空機のEU内への入域制限、イラン革命防衛隊関係者への査証発給禁止と資産凍結などが含まれ、実施されればイラン経済に大きな打撃を与える可能性がある。この制裁を牽制するためか、イランは濃縮ウランのスワップについて交渉を再開する用意がある旨、10年7月にIAEA事務局長に書簡で伝えたと発表している。

(CISMORリサーチアシスタント 杉田 俊介)
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