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ユダヤ人の国際移動システム:1880〜2014

公開講演会

19〜21世紀の世界におけるユダヤ人の移動―日本・極東との関係

ユダヤ人の国際移動システム:1880〜2014

日時: 2014年09月21日(日)13:00-15:00
場所: 同志社大学今出川キャンパス クラーク記念館 2階チャペル
講師: Prof. Uzi Rebhun
ヘブライ大学、現代ユダヤ史学(ディアスポラ学)准教授
要旨:
【要旨】
 Rebhun氏は、1880年から2014年の約130年間の時期におけるユダヤ人の国際移住の状況を、詳細な統計などを示しつつ、明らかにした。
 ユダヤ人ほど空間的に移動し、世界にひろがっている民族は少ない。神がアブラハムに「あなたは生まれ故郷/父の家を離れて/私が示す地に行きなさい」(創世記12章1節)と語って以来、ユダヤ人の歴史は、何世紀にも渡る離散と帰還の繰り返しだった。そして現代におけるユダヤ人の移動は劇的なものになっている。地理を最も広い意味で理解することが、ユダヤ人の歴史、社会、文化構造を理解するうえで重要である。
 18世紀初頭、世界におけるユダヤ人の人口は約100万人であった。彼らは虐殺および迫害の対象だったため、人口を増やせなかった。18世紀後半には特にヨーロッパにおいて人々の寿命が延び、出生率も上がった。ユダヤ人の人口も2倍の250万人に増えた。19世紀末には1000万人になり、第二次世界大戦の直前には、1650万人となった。しかし、ホロコーストで600万人のユダヤ人が命を奪われ、わずか6年間で総人口の3分の1が失われた。第二次世界大戦以降、ユダヤ人の人口は徐々に増え現在の総人口は1400万人強と見られている。19世紀末は10人中9人のユダヤ人がヨーロッパ、特に東ヨーロッパに住んでいた。この130年間における移住の結果、世界のユダヤ人のうちの約43%がイスラエル、約40%がアメリカに現在集まっている。統計的に、経済的に発展し、政治的に安定している民主主義国家などにユダヤ人は住んでいるが、これはこれまでのユダヤの歴史の大半の状況とは異なる。
 ユダヤ人の空間的な広がりを考える際に、「ホームランド」と「ディアスポラ」という概念が重要となる。イスラエルに住むユダヤ人と、それ以外のところに住むユダヤ人の間に区別を見取るのである。シオニズムは、「イスラエルはユダヤ民族のホームである」という考えを、イスラエル国家の要、独立宣言の基礎とした。イスラエルを物理的に住む場所というだけでなく、宗教的、文化的なバイタリティの源と見做している。イスラエルへ移住することはヘブライ語で「アリヤー」(シオンに上る)と表現する。数はずっと少ないが自分の意志でイスラエルを出て、他の地域に定住する人もいる。イスラエルから他の国へ移住することを、「イェリダー」(下っていく)と表現する。興味深いことに、他の地域に住んで、イスラエルとのつながりが薄れると同時に、ユダヤ人としての宗教、民族的なアイデンティティは強まる傾向を示す(儀式や食事規定などの慣行)。海外に行ったユダヤ人は受入社会に同化するのではなく、その国にあるユダヤのコミュニティ、すなわちディアスポラに統合される傾向にある。
 講演後の研究会では、イスラエルから米国とヨーロッパに移住した人々の文化変容とトランスナショナリズムが比較検討され、イスラエル出身の移民とロシア出身のユダヤ人に同様の諸傾向が見られるか、EUのムスリムの移民集団にも同様の傾向が見られるか、などの問いが論点となった。(CISMOR特別研究員 平岡光太郎)
【概要】
ユダヤ人ほど移動する民はいない。これは、ユダヤ人を彼らの出自国から、世界中の様々な目的地(イスラエル国家の建国以降も依然として彼らを惹きつけているのだが)へと追い立てる社会・経済的要因を反映している。また、現代における移住の規模や方向性、受け入れ社会でのユダヤ移住者の順応性についても論じる。

※入場無料、事前申込不要
※英語講演、逐次通訳あり


【主催】同志社大学一神教学際研究センター(CISMOR)
【共催】同志社大学神学部・神学研究科
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