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[掲載情報]国際学会に関する記事(クリスチャントゥデイ、2016年3月26日)

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[掲載情報]国際学会に関する記事(クリスチャントゥデイ、2016年3月26日)

2016年03月28日

2016年3月26日発行の『クリスチャントゥデイ』にて、3月18日に開催した国際学会記事が掲載されました。

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「国際テロをテーマに同志社大一神教学際研究センターでシンポ」

(1)国際統計から見たテロリズムの報告

(2)西欧近代文明の暴力性を問う

 

(文面)

(1)国際統計から見たテロリズムの報告

国際テロをテーマにしたワークショップと「社会の中の国際テロ・セカンドステージ」と題した公開講演(同志社大学一神教学際研究センター主催)が18日、同大で行われた。午前のワークショップでは、「Police and Internal Security」と題して、IPSA(The International Police Science Association=国際警察学協会)のマネージャーによる国際的な「警察学(Police science)」の現状についての報告の他、警察庁の元テロ対策担当者や、防衛大学教授、ロサンゼルス市警察官による講演も行われた。

「警察学」とは、まだ耳慣れない言葉だが、警察活動を強化することを目標とし、個人の権利と自由を制限せずに社会的治安の脅威に対応することを目的とした学問であり、2013年に米国、ニュージャージー州に国際警察学会(IPSA)が創設され、現在世界各国の40以上の団体と個人が参加しているという。

具体的な活動としては、セミナーや訓練を通して専門知識の共有や、他の科学の分野研究との連携、各国の警察学関連データベースの活用などを通して科学的捜査官の育成などを行っていることが報告された。

元警察庁外事情報部国際テロ対策課課長補佐の吉村郁也氏は「日本における国際テロ対策の現状と課題」と題して講演した。中東地域での駐在経験もある吉村氏は、拘束され身柄の安全が懸念されているジャーナリスト安田純平さん(41)のケースにも触れ、1994年から2015年までに国際テロによる日本人被害者は58人に上っており、「過激派組織『イスラム国』(IS)も名指しで日本を攻撃の対象としており、国際テロの脅威はもはや他人事ではなく深刻な問題だ」と述べた。

今年5月の伊勢・志摩サミットや2020年の東京オリンピックに向けての日本における国際テロ対策の現状では「水際対策の強化」が重視されており、顔画像や指紋照合などのバイオメトリックスシステムの導入やAPIS(入国者の情報管理システム)や国際連携、民間企業などとの連携強化の取り組みなどが行われていることが説明された。

防衛大学校国際関係学科の宮坂直史教授は「日本のテロリズム対策政策 防止、応答、民間部門の役割」と題して講演、1960年代からの日本におけるテロ事件を振り返った上で、現在のテロ対策訓練についても説明した。また、従来の化学・生物テロに加えて、近年は原子力発電所へのテロのリスクが懸念されていることにも触れ、テロリズムは多様化している一方で、対策や計画がワンパターンになりがちであり、「もし東京で大規模な爆発テロが起きたとき、病院が緊急受け入れするのが困難」と懸念を述べた。さらに、対策をする警察や一般の人にイスラムへの一般的な知識がなさすぎることも指摘された。

この他、「心的外傷後ストレス障害(PTSD)の判定」やロサンゼルス市警察担当者による「ドローンと安全問題」という講演も行われた。

午後からは同志社大学神学部チャペルで、「社会の中の国際テロ・セカンドステージ」と題して、国際警察学会(IPSA)会長のアムドゥフ・アブドゥルムッタリブ教授(アラブ首長国連邦)による講演が行われた。同氏は18歳からエジプトでさまざまな警察業務に従事した後、カタール、アラブ首長国連邦で長年にわたり安全保障や法律顧問を務め、アラブ諸国や米国などで、警察学・刑事司法を研究している。同学会では、さまざまな国から65人の研究者を集めて警察学の研究を行っているという。

まず同氏は、国際テロリズムについては、政治、法律、警察などからどのように定義するかで250もの定義があり、実態を捉えるのが非常に困難であることを指摘、その原因はテロ行為が犯罪暴力行為と比較して動機が著しく異なっていることが理由にある、と述べた。

世界のテロ事件の統計 3万2千人の犠牲者、前年に比べ80%増加

さらに、世界のテロリズムに関する統計も報告された。国際テロ統計分析(2015年発表)によると、テロによる死亡者の数は、2014年は前年度に比べ80パーセント増と統計を取り始めてから過去最多となり、世界で3万2685人(2013年は1万8111人)に上る。2000年以来、テロ行為死亡者数は9倍になっているが、研究対象国の162カ国中、95カ国では死亡者を出すテロは発生していないが、67カ国では死亡者が増加しているという。

国別では、ナイジェリアが最多(全体の23%)を占め、さらにイラク、シリア、アフガニスタン、パキスタンと続く5カ国が最も多い。テロ組織別では、ナイジェリアのボコ・ハラムによるテロ犠牲者が6644人、イラクとシリアのISによるテロでは6073人が死亡した。しかし、メディアではISに関する報道が圧倒的に多いのが現状だ。それらのテロに対する世界の治安対策費は1170億ドル(約13兆2千億円)にも達するという。

一方で、死亡者は増加しているものの、世界の殺人犯罪による死亡者は年間43万7千人に上り(テロの犠牲者の約13倍)、テロの犠牲者は実際には通常犯罪の犠牲者よりはるかに少ないという事実も指摘された。

しかしながら、テロリズム犯罪は予想が全くできず、発生した際の被害は大きなものとなるため、テロリズム犯罪の社会的影響力は他のどの犯罪よりも衝撃的であり、マスコミ報道も実態より大きく報道しがちとなる。テロ組織集団もまた、そのような衝撃的な報道を自己の実績として宣伝し、影響力や資金提供を促すために利用するという悪循環があるという。

テロ攻撃の関係性と動機

また、貧しい諸国と比較して、豊かな諸国でのテロの動機は複雑であり、社会経済要因、若者の失業、ジャーナリズムでの信頼、民衆主義への信頼、麻薬犯罪、移民の態度が関係しているという。USIP(米国平和研究所)が、テロ組織アルカイダに参加するために米国から出国した2032人にインタビュー調査を行った結果からは、以下のような事実が明らかになってきたという。

① 男性が大半であり、女性の数は少ない。
② 異常な人格者ではない。教育を受けた人が多い。(反社会的人格者たちは軍事作戦では信頼できない)
③ 組織防衛のために参加を決意しており、アルカイダのような組織の軍事リクルートが参加者の信頼を得ている。
④ 経済的理由だけではない。貧困ではなく、むしろ豊かであることへの怒りや疑問が動機となっている。
⑤ イスラム教のバランスのとれた理解をしてない。
⑥ 家族の大半は普通に宗教実践をしており、宗教を押しつける家庭ではなかった。
⑦ ニュースやメディアを通じて、組織へとひかれていった。

また、「仕事を得る」という意味で参加する者も多いという。ISは、占領地の税金、石油の盗掘などで財政的に豊かであり、ITの使用にもたけていることがこれを支えているという。

対策

この傾向に対する対策の研究も行われている。アフガニスタンでのジハード組織に参加し、その後帰国したヨーロッパ人を調査した結果からは、「帰国者の取り扱い方」が悪い場合にテロに走るケースが増える、という。このため、サウジアラビアやアラブ首長国連邦では、帰国者への再教育や社会適合のための支援制度を作ることで一定の成功を収めているという。しかしアメリカの場合、テロを武力で攻撃し、その結果またテロが発生するという状態になっている、と懸念を述べた。

同氏は最後にテロに対する四つの対策を述べた。

① テロに対する法を制定しての対応
② 財政的対応(マネーロンダリング・銀行送金の監視チェック、財源を枯渇させること)
③ 文化的な価値に対する認識、啓蒙(文化・倫理対策)、イスラムの伝達の仕方の改革
④ 国際連携

近年、ペルシャ湾岸の6カ国の間でも共同の対テロ対策会議が組織され、テロリストのデータベース整備などが進められており、イスラム諸国、国連レベルでも同様の取り組みが進められているという。テロ攻撃は、国家間の戦争にとって代わる「第4世代の戦争(4GW=Forth Generation Warfare)という言葉として認識されるようになっている。情報交換と共有、犯罪者引き渡し協力などの対テロ協定締結に加えて、人権と自由の保護、社会・経済・政治・民族・イデオロギー・宗教的な面からのテロの根本的な原因の除去が必要、と締めくくった。

講演の後は質疑応答も行われた。同センターのサミール・ヌーハ教授(エジプト)は、「キリスト教は宗教と政治を分離する、イスラムにおいては政治が最初期からイスラムの制度の中に入っている。宗教としてのイスラムは、ムスリムに対して政治を行うための文脈であり、政治や言語をそこから引き出す源泉のようなものです。その中で過激派を用いて特定の目標に使用するように仕向けている。しかし、これらの行動はイスラムの教えを反映したものではない。彼らがアラーやカリフ制のために戦っていると言ってもそうではない。われわれは中東における諸政府が社会の治安と市民の安全の間にバランスの取れた政策を取ることに意を用いることができてこなかったし、警察組織にも問題があった。しかし、テロ根絶のために民主的な価値観、社会的な価値観の保護、社会の平等、差別のない治安サービスが行われることが確保されるべき」と述べた。

 

(2)西欧近代文明の暴力性を問う

シンポジウムでは、シリア人の文学者で詩人のムハンマド・オダイマ氏(東京大学非常勤講師)による「文明とテロリズム」と題した講演も行われた。同氏は1954年シリアのルワイサットで生まれ、ダマスカス大学でアラビア文学を学んだ後、パリ第一(ソルボンヌ)大学で博士号を取得、1990年から東京大学でアラビア語、文学を教授しており、多くのアラビア語の著作がある。また『古事記』や俳句、太宰治の『人間失格』や石川啄木『一握の砂』、小林秀雄など、日本の古典から近代文学と詩をアラビア語に翻訳した著作も数多く手掛けてきた。現在は日本に在住しているが、シリアにある家の状態も不明だという。

この日、氏はまず「啓蒙主義に始まる近代西欧文明と暴力との関係について話したい。具体的には2010年からの『民主化』運動において、市民の政治的自由の確立という西欧近代の啓蒙主義の延長上にある価値観のために、英米仏が行った反体制勢力への財政・武力介入支援が、シリア人やシリア人として生きる私をどのような状況に追いやったかを、文明と国際テロリズムの文脈で考えたい」と述べ、中東情勢、特にシリアとイラクにおいてこの四半世紀の間、混乱を抱え、多数の難民を流出させるに至った原因は西欧啓蒙主義文明にある、と指摘した。

同氏の講演要旨は下記の通り。

啓蒙主義文明の現代的状況

戦争、テロリズムが頻繁に起こっている地域は西欧文明地域、あるいは西欧文明が介入した地域であることは紛れもない事実です。敵対主義、暴力主義は明らかに啓蒙主義文明に内包されたものです。米国は世界の警察官としての役割をますます果たそうとしています。戦争と国際テロが発生・拡大している地域は、啓蒙主義文明が主導的役割を果たしている地域だといえます。これに対して相対的に安定した平和地域といえるのは、日本や中国のような仏教あるいは儒教を基礎としている文化、文明の地域といえるでしょう。

文明の憂鬱(ゆううつ)

今日の西欧文明は私を魅了するものです。私は文学を志して以来、西欧文明が生み出した文学を耽溺(たんでき)するほど読み、自らも詩人・文芸批評家として数多くの作品を西欧文明の枠の中で書いてきました。西欧文明の倫理・道徳・人間の幸福の実現を信じていました。それが全く反対のものをもたらすであろうことなど疑うことさえしませんでした。

西欧文明が悪と偽善を内包し、そこでは人間の倫理が崩壊しているなど、どうして信じることができたでしょうか。

現在中東で起こっていることを目撃しながら、私がこれまで親しんできた西欧文明の文学と、その枠を意識した自分の文学活動に費やした時間を後悔することしか私にはできません。私はそうして失われた自分の時間を軍事調練や兵器の扱い方を学ぶ時間に充てればよかったのではないかと後悔するほどです。

西欧文明とは?

西欧は過去2世紀以上の長い間、世界をリード・指導してきたことを十分知っています。しかし、私は若い時から学んだ西欧文明をどのように理解すれば良いのかを知りません。私は西欧文明、西欧の詩人たちと思想家を信じてきました。私はアラブ人、シリア人でありながら、西欧文明と、それが生み出した価値を過去数十の間、防衛する立場にいました。西欧文明は啓蒙主義の上に立ち、公平無私な他者への隣人愛を、また寛容を、人間としての同胞意識を、そして自由と公正を至上のものとしてきました。

西欧文明は非宗教的、近代哲学の上に立つものとされますが、宗教への信仰の上に立つキリスト教会の文明と比較して、本当に優れたものなのでしょうか? 今日の非宗教的西欧文化人たちは、中世の宗教文明の知識人たちよりもより寛容と言えるのでしょうか? 私は、そう信じてきたのでした。しかし、現在中東で西欧文明が犯している犯罪的介入を見れば、私はそうは思いません。私は全く逆ではないかとの思いを強くしています。西欧近代文明の敵対観、その攻撃的性格を見れば、キリスト教会が創造した文明の方が、はるかに寛容で、公平であると言えるような状況が生まれているのではないでしょうか。人道主義という大義に隠れて行う犯罪的行為は、中世のキリスト教文明が行った行為より、数倍、数十倍も犯罪的であります。

21世紀の戦争

啓蒙主義の哲学、その文明とも呼べる西欧文明が支配する時代に二つの大戦が起こり、数千万人が犠牲となりました。それはヨーロッパ諸国間の戦争でもありました。その戦争は、私の祖国シリアで、そして中東で続いています。21世紀の始まりと共に、西欧文明の軍隊はアフガニスタン、イラク、リビア、シリア、イエメンを破壊し、数百万の人々の生命を奪い、今もなお、そうした行為を続けています。

十字軍でもなければ、宗教指導者たちの唱導(しょうどう)もない戦争です。西欧文明の価値観である権利と公正を大学で学んだ、卒業生たちの軍隊です。西欧文明の文化人たちが信頼を置く兵士たちの軍隊です。つまり、西欧文明を体現した兵士たちの軍隊なのです。兵士たちは非宗教的で、民主主義、自由を信じています。彼らは教育を通じて西欧文明の価値観と原則を学んだ後、後者に対する敵対的態度を取り、軍事攻撃を行って殺戮(さつりく)と破壊を続けています。双方を調和させる論理がどこから来るのでしょうか? 狂気じみた行為へどうして進むことができるのでしょうか?

非宗教的価値観の中で育った西欧文明の文化人とは何者なのでしょうか? 彼らは自国内において、他人の権利を侵害することもなく、また人道的過ちを犯すこともなく生活しています。そうした彼らがいったん自国を離れるや否や、一日の距離にある中東で、殺人者、泥棒、略奪者へと変貌するのです。イラク、シリア、その他の中東諸国に足を踏み入れた途端、非宗教的文明と、そのヒューマニズムの価値観は消滅してしまうのです。そうしたことがどうして可能なのでしょうか。

狂気という言葉を使わないための驚きと疑問

私たち犠牲者に対し、西欧文明の人たちは、殺戮、破壊、略奪という犯罪行為に対する彼らの無実と、彼らの文明の無実を信じてほしいと望んでいるでしょう。彼らの弁明はあらゆるところでなされるでしょう。それはあたかも彼らの文明を信じない者の異端法廷で行われているようです。

私は西欧文明を体現している近代ヨーロッパの文化人たちに言いたいと思います。西欧哲学、詩、小説、芸術、テロリズム、特権的敵対行為、西欧的価値観の否定者への異端審問など、非宗教的西欧文明は、中世ヨーロッパ教会の異端審問と比較した場合、より敵対的であると言えます。

西欧において近代哲学が宗教に勝利して以来、戦争とテロリズムのなかで西欧文明は続いてきたといえるのです。近代化、進歩、民主主義、人権、公正への理解と浸透の中で、哲学者、詩人、文学者、芸術家を含めた西欧諸国民たちは、全ての土地とその非西欧の国々を侵略し富を略奪し、非キリスト教信徒たちを殺害しています。西欧文明の国々の国民軍は、貧しい国々から別の貧しい国々へ移動しながら戦争を続けています。彼らの大義は国際テロリストたちとの戦いです。アフガニスタンのアルカイダ組織、大量破壊兵器のイラク、シリアのイスラム国、リビア、イエメンと次々と戦争を続けています。民主化の大義の下、次はどこで戦争を行うのでしょうか。確実に言えることは、中東の別の新しい国でありましょう。

一人のアラブ人として

私が言いたいのは、弱小で貧しい国々が世界の平和と安定を脅かす存在であり、そうした国々を攻撃し、わずかな生存者しか残らないまでに家屋・財産を破壊するしかないという論理が正しいかということです。西欧人たちはアラブ人とアラブ諸国にしかテロリストを見いだせないのでしょうか? イラクの独裁者サッダーム・フセイン、あるいはリビアの独裁者ムアンマル・アル=カザーフィーを例にとりましょう。この2人は、世界の政治指導者たちの誰にも増して、世界の平和と安定にとって危険な人物だったのでしょうか? 彼らの2国を破壊する必要があったほど危険だったのでしょうか? 西欧文明の力をもってしてみれば、数百万というイラクやリビアの人々の生活と生命を犠牲にすることなく、2人を排除することはできなかったのでしょうか?

イラク、リビア、シリア、イエメンの子どもたちが何をしたのでしょうか? 彼らの国の病院の破壊を西欧文明の兵器と武器で正当化できるほどの犯罪行為をしたのでしょうか? 子どもたちにとって最低限の生活保障さえ奪うほどの行為をしたのでしょうか?

アラブ諸国は世界の平和を脅かすほどの兵器生産工場は一つもありません。そうした兵器を生産する能力もありません。テロリストたちの武器はどこから来るのでしょうか? テロリストがそうした武器を手に入れることができなかったとしたら、彼らは危険な存在であり続けるのでしょうか?

兵器を生産し、販売する西欧文明諸国は、世界の平和と安定を統御できるのです。非宗教的西欧文明がしていることは、私たち犠牲者に強制的に彼らの兵器と武器を買わせ、その後、そうして買い取った兵器と武器を所有しているとの罪で、私たちを殺すことです。

非宗教的文明、啓蒙主義的文明がしてきたこと、していることを冷静に見つけることから、私たちは戦争と国際テロの問題の解決へと向かわなければなりません。

 

(記者:土門稔)