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ペルシア・イスラーム文化の諸相を知る-書道と詩を介して-

公開講演会

ペルシア・イスラーム文化の諸相を知る-書道と詩を介して-

日時: 2013年10月05日(土)13:00~15:30
場所: 同志社大学今出川キャンパス 至誠館3階会議室
講師: ハサン・アーハンギャラン(Hasan Ahangaran)、書道家
アリーアスガル・サーエム(Aliasghar Saem)、ぺルシア詩人
要旨:
 アルムスタファー国際大学在日事務所と同志社大学一神教学際研究センター(CISMOR)の共同主催で2013年10月5日に公開講演会が開催された。
 本講演会はイランを代表する書道家の一人であるHasan Ahangaran博士と、著名な現代詩人の一人であるAliasghar Saem氏を迎えて行われた。両氏はペルシア文化について書道と詩を通して実演を交えながら講演された。
 まずAhangaran博士が、ペルシア書道について説明された。Ahangaran博士によれば、ペルシア書道には様々な書体があり、昔は75の書体があったが現在では10になっている。そのうちよく用いられるのが四つの書体、すなわち、ナスタアリーグ書体、それを崩したシェキャステ・ナスタアリーグ書体、スルス書体、ナスフ書体である。まず、ナスタアリーグ書体は最も美しいとされる、ペルシア書道の有名な書体であり、「イスラームの書の花嫁」と呼ばれている。また、書物を書く時によく用いられる。シェキャステ・ナスタアリーグ書体は基本的にペン習字、速記が必要な時によく用いられ、そこから発展した書体である。これら二つはイランが発祥であり、その歴史は前者が今から8世紀前に、後者は300-400年前にさかのぼる。残りのスルスとナスフはイスラーム圏で広く用いられている書体である。
 また、日本の書道とイランの書道には共通点が多々見られる。その最も重要な点は両方とも書によってその書家の書こうとする内容を、美しい形で見る者に伝えようとすることである。もちろん日本の書道との相違点もあり、たとえば日本では筆を立てて使うが、イランの書道では少し斜めにして用いる。共に太く書くべき部分と細く書くべき部分があるが、イランの書道では、筆先の自分に近い側と遠い側(それぞれ「親しい」、「野生の」と呼ばれる)を使うことでそれを書き分ける。また筆先は「舌」と呼ばれる。
 そして書道を学ぶ時には三つの段階がある。まずは見ること、すなわち先生の作品の見本を見て、どのように書かれているのかを一生懸命学び取ることである。それは「見る練習」である。次の段階は筆による練習で、先生の見本を模倣してその通りに書くことである。それは「筆の練習」である。その二つが終った後、模倣ではなく自分達で書く段階となり、その段階の練習は「想像力による練習」と呼ばれる。このようなAhangaran博士による講演の後、会場にプリントが配布され、参加者がペルシア書道を実際に体験する機会がもたれた。
 この段階でいくつかの貴重な経験が得られた。
(1)プリントに書かれた詩は講演者の一人Saem氏の自作の詩であったこと
(2)参加者は直接、これらの詩を詠んだ詩人の口を通して詩を聴けたこと
(3)参加者はこれらの詩をまず一語一語、次に「メスラー」と呼ばれる節ごとに詩人の後につづいて繰り返し詠み、それによって詩の朗誦の機会も得られたこと
(4)これらの美しい詩の意味がプリントの下部に日本語で書かれていたこと
(5)上記の練習を体験するため、プリントには詩がまず、濃い色で書かれ、次に薄い色で書かれその上をなぞって練習できるようにしてあり、最後にそれを見ながら自分で書けるようにしてあったこと。
 つづいてSaem氏が、神秘主義の様々な段階におけるペルシア文学の役割というテーマで講演を行った。まず氏は、この世の愛情と神秘主義との関係について述べた。氏によると、私欲にまみれず、貞節を汚さない、そういう愛情は、たとえそれが仮のものであるとしても、神聖さをもたらすものであり、神秘主義へ向かう第一歩である。仮の愛情は橋、すなわちそれを渡ることによって真実の愛情に到達出来るものである。これに関してルーミーは、人への愛に心奪われ、人を愛したとしても、最後は神への愛に辿り着くだろうと詠んでいる。
 次に氏は、アッラーに至る道の道程について解説した。それには、要望、愛情、霊知・知恵、自立、タウヒード(神の唯一性)、驚き、そして消失に至る七つの段階がある。この最終段階こそが非常に美しい、至高の境地であり、そこでは何も遮るものがなく、神が顕現される。そしてこれら境地を詩人は詠んでいるのである。
 さらに氏は、自身と親しい付き合いのあった、現在イランで最も有名な詩人の一人である故ソフラーブ・セパフリーとの思い出から印象深いエピソードをいくつか紹介し、彼がいかに清らかで繊細な心をもっているか、また自然と人間性というものに敬意を払っていたかを示して講演を締めくくった。
 当日は、両氏によるペルシア書道の実演や詩の朗読も行われたほか、参加者との質疑応答も行われ、盛況のうちに終了した。
 また講演会の後に参加者には下記のものが贈られた。
(1)Saem氏の詩を題材にしたものを多数含むAhangaran博士の作品集のCD
(2)書道の道具(筆、インク、紙)
(3)博士直筆で参加者の名前を書いた美しい紙
(4)希望者に対してAhangaran博士直筆の名前入り、また両氏のサイン入りの「ペルシア書道と文学の内面の美を知る」講演会参加証書
(CISMOR特別研究員 朝香知己)
※講演言語:ペルシア語、逐次通訳あり        
※入場無料、事前申し込み不要  
 

【概要】
 今回は、イランからアーハンギャラン氏とサーエム氏をお迎えし、ペルシア書道と詩の第一人者であるお二人のお話と実演を介し、ペルシア・イスラームの深い精神的芸術文化に触れる機会を持ちたいと思います。イスラーム教を理解するうえで、書物を介して宗教教義や思想を知るのみならず、それを取り巻き彩なす多面的な文化諸相に実際に触れ親しむことも、理解を新たにし,かつ深めるきっかけとなるでしょう。


主催: 同志社大学一神教学際研究センター(CISMOR)
    アルムスタファー国際大学在日事務所
共催: 同志社大学神学部・神学研究科
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