21世紀COEプログラムによる活動記録

2005年度 第2回研究会

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日時: 2005年6月25日(土) 13:00~18:00
場所: 同志社大学 今出川キャンパス 至誠館3階会議室
タイトル: 米一極構造の中での国連改革
講師: 五十嵐 浩司 (朝日新聞大阪本社編集局補佐、前ニューヨーク支局長)
タイトル: 中国と多国間主義
講師: 浅野 亮 (同志社大学法学部教授)
要旨:
  本研究会では朝日新聞社の五十嵐浩司氏と同志社大学浅野亮教授による報告が行われた。
  国連の資料を用い国連改革の分析を行った五十嵐氏の論点は、日本と米国の国連改革に対する認識の差異とアメリカと国連の関係に収斂する。五十嵐氏は日本での安保理拡大の議論が、「常任理事国入りすべきなのか」と「可能か」という議論が混同されていると指摘する。しかし、この安保理改革の議論と米国での国連改革の議論との間には差異がある。安保理改革は国連改革の一部でしかない。
今回国連と安保理の改革の議論が急浮上した原因は創設60周年という時期と、イラク戦争が関係している。60年という節目の年は改革の議論の提起を容易にした。さらに国連の制度疲労、ミレニアム・サミットの内容の不履行も指摘されている。そのような中イラク戦争によって引き起こされた安保理の有効性への疑義が決定打となった。
  しかし国連の中心はやはり安保理であり、安保理の正統性と有効性をどう回復するかが国連改革の議論の核である。しかし安保理の権威を守ることと、安保理に今の世界を反映させより民主的な組織にすることという正統性と、意思決定の迅速さといった有効性の間にはジレンマが存在する。賢人会議と米国の「新常任理事国の基準」と「武力行使の基準」に関する認識の差異にそれが表れている。 
五十嵐氏は国連改革とは国連と米国の関係の問題であり、国連と米国は互いに必要としている事を付言し、今後の関係への期待を述べて報告を纏めた。
  浅野教授は「中国と多国間主義」の問題を自己認識・国際関係・国内政治の枠組から報告を行った。この議論では「多国間主義」を「今ある国際社会の基本的な価値や理念を受け入れていくこと」という定義で用いている。
  「中華」と言う観念は19世紀に初めて現れる。西洋の衝撃は「帝国」清を「普通の国」中国にした。その原因を漢民族は満州族による中国の支配に求めるが、その一方で清朝の最大版図である領土回復は当然のこととみなしている。ここに中国の自己認識の捩れがある。現在の中国の自己認識は鄧小平(-1997)の死後大きな転換を迎える。2002年の党大会で挙げられた20世紀の三人の偉人(1)に孫文が含まれており、共産党の自己規定は階級から中華民族へ移行したといえる。ここに清朝への回帰をうかがうことができる。
  天安門事件(1989年)以降中国は「low-profit」(2)の立場を取りつつ「できることをする」と言う政策を取る。「できることをする」とは例えばASEAN・東南アジア諸国との接近を指す。90年代、中国は高度経済成長とともに自信を取り戻すが、アメリカの圧倒的な国力を強く認識している。それ故中国のボトムラインはアメリカとの武力衝突を避けることであり、多国間主義を続けていくほかはない。また中国は国際組織において実際の国力よりも大きな存在を示せるので、その選好は現状維持にある。
  中国と米国の利益の一致から六カ国協議ができたように、多国間主義は中国にとって戦術的な手段である。しかし、中国国内で経済成長は共産党と企業の癒着を生み出しており、それは当面中国が多国間主義を続けていく社会的背景になっているといえる。
(注1)他の二人は毛沢東と鄧小平。
(注2) 浅野教授の説明によれば、自分の才能を目立って皆に示さずに実力をゆっくりと蓄えること。
(法学研究科博士前期課程 小橋川唯之)

当日配布のレジュメ

『2005年度 研究成果報告書』p.335-356より抜粋