21世紀COEプログラムによる活動記録

2005年度 第3回研究会

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日時: 2005年7月9日(土)13:00~18:00
場所: 同志社大学 東京オフィス 大セミナールーム
タイトル: 『共和党の変化』から読むアメリカ政治-保守主義運動と連邦議会-
講師: 吉原欽一(社団法人アジア・フォーラム・ジャパン理事長)
タイトル: 2008年を視野に入れた米国民主党の動向
講師: 中山俊宏(日本国際問題研究所主任研究員)
要旨:
 今回の研究会で、吉原氏は保守主義運動と共和党の変化に注目し、中山氏は民主党の将来的動向に焦点をあてて、アメリカ政治の現状に関して報告を行なった。
  吉原氏は、保守主義がいかに運動を組織・発展させ、影響力を行使していくことによって共和党を変化させたかという分析を中心に、近年の議会の動向を論じた。
  同氏は、保守主義の転機として70年代と90年代の変遷を説明した。同氏によれば、70年代はヘリテージ財団の設立、ロー裁判を主たる契機とした保守主義の運動、「ニュー・ライト」運動が確立していった。宗教保守勢力(具体的にはカトリック)はこの時期、ロー裁判で自らの意向が認められなかった結果を重く見て、その後他の宗教勢力との協力やロビー活動を顧みることになったという。吉原氏は、そのような経緯から「ニュー・ライト」は宗教保守を取り込むことに成功し、またいくつものシングル・イシュー組織の組織化による間接ロビー、すなわちグラスルーツ・ロビーによって、国内の社会問題だけでなく政策問題への取り組みも視野に入れた運動を展開していったと述べた。その後1994年には40年ぶりに共和党が下院議会で多数党となり、アメリカ政治・下院議会の運営体制改革に大きな変化をもたらした。吉原氏は、その最も根底的な変革の1つとして1995年ロビー活動公開法を挙げた。この法改正によって、それまでリベラル派ロビーの中心となってきた(IRSコード)501(c)(4)諸団体に政府からの補助金が入ることが禁止された。同氏は、この改正によって元々資金源を補助金に頼っておらず、また同法の規制外でもあるグラスルーツ・ポリティックスの影響力が増し、下院議会、そして連邦政府組織にまで及ぶ保守勢力の連合が創出したと述べた。
  中山氏は、2008年の大統領選挙に向けた民主党の取り組みを中心に説明し、同党の2008年選挙に向けた動向を分析した。
  同氏は最初、近年の民主党側からの著作について言及することから始め、現在の民主党の状況、および内部からの問題意識の形成で提起される問題点を整理した。挙げられた問題点は以下の9つであった。1)元来マイノリティの党であった民主党であるが、現在マイノリティ自体に変化が生じている。以前は、各宗派によってその政治的傾向を考えるのが一般的であったが、現在では「信仰の度合い」で見る方がより現実に近い。2)カンザス州の比較的貧しい白人層が経済的側面を重視して民主党に投票したのではなく、道徳的な政策を支持して共和党に投票したという事情から、彼らが政治の局面において宗教的問題を自らの第一のアイデンティティの位置づけをしていること。3)宗教の問題を共和党に占有されている状態を脱出するために、貧困問題を軸に宗教的ディスコースを組み立てること。4)今までなかった保守派による左翼に対する告発。5)アイディアを作り出し、それを運動にし、後には実際に政策に反映させなければならない、とする意識の出現。6)候補者や党の宗教や道徳的政策事項が選挙を決定する問題となっていること。7)個別のイシュー・グループを連帯した1つの運動体としていく必要。8)労働組合の組織率の低下から、労働運動の再生を必要とする意識。9)外交・安全保障問題に対して、新しいコンセプトを提示していく必要性。
  また、同氏は、2004年選挙の敗退に関して、民主党側は統一見解があるわけではないが、同党がこれまでにない動員力を発揮して活動していたことでは「接戦であった」し、それにもかかわらず敗れたことでは共和党の「圧勝であった」と言えると述べた。
  そしてまた、2008年選挙をもくろんだ新しい政治インフラの整備への取り組みとしては、ハワード・ディーンを民主党全国委員会長に就任させたこと、「ムーヴ・オン」など527団体組織の動員、SEIU (Service Employers International Union)という労働組合の強化、ヒラリー・クリントンのイニシアティブで設立した「民主党版ヘリテージ財団」、アメリカ進歩センター、ヴィジョンと金を持った集団として法廷弁護士を取り込むこと、などの試みが観察されると述べた。
  ディスカッションにおいて、森氏からは、ヒラリー・クリントンが提携関係を築こうとしている「宗教勢力」とは具体的にどういった宗派、層を意味しているのか、また石川氏からはアメリカの外交政策は国際社会の安全保障問題によって規定される部分が多く内政の如何によって大きく変わることは少ないが今後の展望はどうなるか、などの質問がされた。
(COE研究指導員 中村明日香)

当日配布のレジュメ

『2005年度 研究成果報告書』p.335-356より抜粋