21世紀COEプログラムによる活動記録

2006年度 第3回研究会

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日時: 2006年10月28日(土) 13:00-17:00
場所: 同志社大学 今出川キャンパス 扶桑館2階 マルチメディアルーム1
タイトル: 米外交と中東情勢
講師: 宮家邦彦(AOI外交政策研究所代表)
タイトル: 暴力とテロリズム:東南アジアからみた米国の対テロ対策
講師: 河野 毅(政策研究大学院大学助教授)
要旨:
  今回の研究会では、宮家邦彦氏(AOI外交政策研究所代表)と河野毅氏(政策研究大学院大学助教授)による報告とそれに基づく活発な議論が行われた。
  宮家氏は、米国の外交と中東情勢について報告した。はじめに、ネオコンの検討を端緒に冷戦期以降の米国の外交政策を概観した。その上で氏は、現在の政策を小さな政府で理想を目指す矛盾したものと特徴付けた。続いて米国の中東政策が検討された。氏によるとそれは現在、イスラエルの安全保障と石油の確保という従来の目的に、テロとの戦いと中東の民主化という新たな目的が加わったために停滞しているという。次いでイラン、イラク、レバノンを中心とする最新の中東情勢が詳細に分析された。そこから、中東の錯綜した状況とその解決の困難さとともに、現在の中東情勢を理解する際に米国とイランの対立軸を押さえる必要性を指摘した。最後に氏は、米国外交の今後について、ネオコンと言われる人々が政治的力を落とす一方で、ネオコン的な考え方はテロとの戦いがイスラームとの戦いに転化されることで状況に応じて残ると予測した。そしてそれは、米国にとり決して楽観できるものではないと結んだ。
  河野氏は、米国の対テロ政策が東南アジアにおいていかに解釈されているか、その実態について主に反米感情との関係から報告した。氏はまず米国の対テロ戦争が、限られた情報と冷戦と類似の構造に特徴付けられるとした。その上で、9・11後の東南アジア各国における外交と内政の現状を、インドネシア、マレーシア、フィリピンの事例を通して明らかにした。続いて氏は、東南アジアのムスリム一般が持つ反米感情に視点を移しその分析を行った。それは大きく、1)歴史に由来する反植民地主義的な感情、2)グローバル化に取り残された現状への閉塞感、3)国連を無視した力の論理に基づく中東政策に対する怒り、4)社会腐敗と結びついた米国文化への嫌悪から構成されるという。更に氏は、こうした反米感情が、1)米国の政治的影響力拡大のための手段、2)弱いものいじめ、3)イスラームへの戦争、4)既存の国家への挑戦という東南アジアにおける対テロ戦争のイメージ形成に密接に関係していることを明らかにした。最後に、現在の対テロ政策が維持されるならば、米国のみならず同国と同盟関係にある日本も東南アジアにおける信用を落とす危険性を指摘した。
(CISMOR奨励研究員・総合研究大学院大学文化科学研究科 小河久志)

『2006年度 研究成果報告書』p.223-247より抜粋