21世紀COEプログラムによる活動記録

2006年度 第4回研究会

  • 061202a
  • 061202b
日時: 2006年12月2日(土) 13:00-17:30
場所: 大手町サンスカイルーム D会議室
タイトル: 米中間選挙を読む――福音派の動きを軸に
講師: 会田弘継(共同通信社編集委員室編集委員)
タイトル: 中間選挙後のブッシュ外交
講師: 村田晃嗣(同志社大学大学院法学研究科教授)
要旨:
  本研究会では米中間選挙(2006年11月9日)に関して、会田弘継(共同通信社編集委員室編集委員)、村田晃嗣(同志社大学法学部教授)の両氏による研究発表がなされた。
  会田氏は出口調査等の資料を用いながら選挙結果を読み解いた。共和党に対し下院で28議席少なかった民主党は、今回の中間選挙では30議席以上の差をつけて大勝し、上院も過半数を制した。また、知事選においても民主党は躍進を遂げた。このような選挙結果をもたらした要因として、イラク戦争やブッシュ政権に対する国民の不満が高まるなか、民主党が無党派層や中道層の支持を得たことが挙げられる。会田氏はこのことを、保守的な傾向の民主党議員の大幅な議席数の増加や、カトリック、ヒスパニック、女性票の推移を具体的な数値を示して詳らかにした。今回の選挙ではシュワルツネッガー知事(共和党穏健派)、スノウ上院議員(同)などの善戦という例外があるとはいえ、民主党中道派(保守派)が躍進し、共和党穏健派(進歩派)が後退した。人工妊娠中絶反対や銃規制反対などの保守的見解を持つブルードッグ派議員の躍進に顕著なように、民主党は「左」から中庸へと右シフトし、「価値values」の問題で共和党が右に寄りすぎて空けた真空を埋めることで選挙に大勝したのである。大統領選以降、民主党は価値問題に対して様々な努力を重ねてきた。例えば、Faith Working Groupによる信仰問題の見直し、候補者の教会ラジオへの積極的な出演、若手議員のオバマの基調演説(Call To Renewal)、FaithfulDemocrats.comの立ち上げなどである。全人口の25%を占めるエヴァンジェリカルの票の推移は、04年に比べ民主の微増、共和の微減であり判断は困難であるが、頻繁に礼拝に出席している人々が民主党に投票していることなどからも分かるように、民主党は今回の選挙でいわゆるGod Gapを相当程度埋め得たと言える。また、価値問題への取り組みに際して、民主党とリベラル福音派が共に行動したということは特筆に値する。従来、福音派は価値問題として専ら中絶や同性婚の問題に焦点をあててきたが、そこではそれらの問題を超えて、環境問題や地球温暖化問題(Great Warming)、貧困問題などが取り上げられている。つまり、保守派や福音派の中にも様々な価値観の問題が出てきており、一概に保守的と決め付けることのできない多様的傾向を見せはじめているのである。
  村田氏は中間選挙の結果が今後のブッシュ外交に与える影響について考察した。今回の中間選挙は民主党の大勝に終わったが、大統領は外交・安全保障問題に関して絶対の権限を有しているために、この大勝が直ちにブッシュ外交の大幅修正につながることはない。むしろ大統領と議会多数派が政党を異にする「分割政府」では、かつてクリントン政権時に起こったような両すくみの膠着状態となる恐れもある。今後、民主党はイラク問題を巡って政権への批判を強めるであろうが、議会での優位を得た民主党の側にも責任が生じてくる。2年後に大統領選を控える今、民主党には「ブッシュ以外なら何でも」という「批判のための批判」を超えた建設的な代案が求められている。また、このような情勢の中で、民主‐共和の反目を越えて両党の穏健派が融合し、勢力を伸ばし始めているとの論もある。ブッシュ政権にとって死活問題となっているイラク問題に対する解決案は様々であるが、その中でブッシュ政権、民主党の両者が注目しているのが「イラク研究グループ」と、その事実上の中心人物であり「トラブル・シューター」として名高いジェームズ・ベーカーである。超「リアリスト」である彼は、おそらくイラクの民主化を優先するのではなく、イランやシリアなど関係諸国との外交上の対話を進めることでイラク問題の漸次的解決を図るだろう。しかし、イラクに対し強硬路線を採った「ネオコン」から「穏健」へというこの道行では根本的な解決は望めない。そればかりか、テロリストなどの非国家主体が大量破壊兵器を獲得し使用する危険性が高まるなか、既存の国際法や国際機関が機能しなくなりつつあるという事態、またそのような情勢においていかに安全保障を担保するのかといった焦眉の問題が覆い隠される危険すらある。これでは短期的な利益をもたらしても長期的な利益とはなりえない。確かに手段やニュアンスに関してこれまでのブッシュ外交には粗暴な点が多々あったが、そのことで彼らが提起した問いや目的までもが否定されて良いのだろうかと村田氏は指摘する。以上の中間選挙がもたらす影響は、北朝鮮問題という点では日本に不利に働く。拉致問題を含む人権侵害についてブッシュ政権は関心を高めつつあるが、北朝鮮問題は外交上の「優先順位」としては低く、また北朝鮮のミサイルが日本には届くがアメリカには未だ届かないという事態から日米の目標の乖離が生まれる恐れがある。日本政府としては、今後イラク問題について尽力することで、アメリカの東アジアの安全保障問題を有利に導くことも重要になってくるだろう。
(CISMORリサーチアシスタント・神学研究科博士後期課程 上原 潔)