21世紀COEプログラムによる活動記録

2004年度 第1回研究会

日時: 2004年11月20日
場所: 同志社大学 今出川キャンパス 神学館
タイトル: 「ヨーロッパにおけるグローバリゼーションと宗教」
講師: F.W.グラーフ (ミュンヘン大学神学部)
要旨:
 「欧州におけるグローバル化と宗教」、この主題をグラーフ氏は四つの契機から論じた。第一にグローバル化の概念規定、第二にEU統合の歴史とそこで達成された事柄の考察、第三に欧州の宗教的文化的多様性の考察、第四に欧州的な宗教的文化的多様性と寛容の考察、以上の四つである。
  一、グローバル化の概念の定義は、経済学では通信、交通、輸送技術の進展による国際的分業の促進である。また社会学では均一な社会形成のプロセスである。例えばインターネットがもたらす情報伝達は、情報認知面での世界的均一化を促し、それが文化的差異の解消に繋がっていくというわけである。ただし、このようなグローバル化のプロセスは不可逆ではない。急激なグローバル化の後にはローカル化と呼ぶべき反動が生じてくる。近年の民族主義や宗教原理主義はこの類例と言うことができる。
  二、EU統合は未だ完了を目指す途上にある。その為には更なる経済統合と通貨統一、統一欧州法の権威の強化、欧州議会の権威の強化が必要である。またグラーフ氏は、欧州合衆国といったような統合への志向と、国民国家システムへの固着志向との均衡点を模索する必要性、周辺国をEUに受容する際の諸問題を指摘した。とりわけトルコのEU加盟は多数の問題を孕んでいる。
  三、欧州の宗教事情を考える際には、単一の宗教教派で統べられているデンマークやスペイン、ギリシャといった諸国家と、そうでない諸国家を区分する必要がある。多様な宗教を抱える国家については、従来は多宗教共存のイメージが強かった。しかし、実際の調査では宗教ごとのゲットー化とでも言える状況が生起している。従来の宗教的寛容のイメージは過去のプロテスタント諸教派の共存から生じてきているものであり、それを安易に現在の状況に適用するのは不適切なのである。
  四、従来の欧州宗教史の観点では、人は一つの宗教的伝統、信仰を有すると見られてきた。しかしそうとは限らない現状がある。例えばカトリック信徒でありながら輪廻転生を信じている人もいる。このような現状、また移民によるイスラーム流入に伴い益々多様化する宗教状況を、多様性を保持したままに統合するには一つの法の存在が不可欠である。法の下での平等は宗教の多様性を保証し、同時に法を越える宗教活動を制限する。新しい宗教多元化のプロセスはこのような基盤を必要としている。
  近年の宗教問題に関する議論では、それぞれの宗教に固有の価値があるとする相対主義が優勢である。しかしこのような観点は適切ではない。それは芸術作品のそれぞれが価値を有しつつも、その価値が作品の美醜に左右されるのと同様に、宗教もまたその信仰の質と価値が量られるべきなのである。ここでかつてトレルチが語ったような人権に対する態度が問題となってくるのだとして、グラーフ氏は講演を締めくくった。
  講演後の石川氏のコメント、またフロアからの質問にもグラーフ氏は以上の観点から積極的に回答され、終始一貫して法の重要性を主張されていた。
(CISMORリサーチアシスタント・神学研究科博士後期課程 高田 太)

『2004年度 研究成果報告書』p.568-579より抜粋