21世紀COEプログラムによる活動記録

2004年度 第8回研究会

日時: 2004年11月10日 (第2回文化庁国際文化フォーラム参加行事)
場所: 同志社大学 今出川キャンパス 至誠館
タイトル: イスラーム学からみた欧米型民主主義 ― モハッゲグダーマード師に聞く
講師: モスタファ・モハッゲグダーマード (イラン科学アカデミーイスラーム学部)
要旨:

  本研究会は、第2回文化庁国際文化フォーラムに招聘され訪日中のモスタファ・モハッゲグダーマード師を同志社に招き、イスラーム学における民主主義の概念について講義していただいた。
  同師は、1)イスラームの根本的な思想における民主的思想、2)イランを例とした中世から近代における政治状況、3)1979年イスラーム革命後のそれぞれの政治的状況をあげながら民主主義的要素を説明した。
  モハッゲグダーマード師は最初に、民主主義の経緯として西欧キリスト教世界で起きた政教分離をあげ、これ以降教会が「現世における神の力の顕示」とされたとし、神の聖性が統治権という世俗的なものに付されることのないイスラームとの差異を強調した。イスラームにおいては、預言者は人間に民事を司る現世的権力が与えられるとし、神的権力を禁じた。師によれば、クルアーンには現在用いられる意味の「ダウラ(国家)」という言葉は登場せず、「ウンマ(ムスリムの共同体)」に現世のイスラーム的統治の全権力が委譲されている。この「ウンマ」は、当時有力な集団「カビーラ(部族・氏族)」とは異なる要素からなる共同体で、宗教的意味が付されていた。従ってウンマは、現在の「ミッラ(民族・国民による共同体)」とも性質が異なる。また聖典中の、a. 自らの運命に対する責任、b. 勧善懲悪、c. バイア(共同体運営に関する忠誠の誓い)(48章18節)、d. シューラー(協議)は、ウンマに与えられた統治権を証明するものである。
  次に、イランを事例にとり、サファヴィー朝、ザンド朝、カージャール朝などの歴史的王朝の変遷を述べ、民衆がイスラームの教えを受け入れてそれに基づいて行動することにより、国王・国家などの支配者に対して政治的正当性を的確に判断し、また付与していた経緯を述べた。
  1978年のイラン革命もその一例であり、人々の要求においては、自由、独立、イスラーム共和主義の3つが核を成していた。これら3つの概念は全てイスラームに基づいており、人々はイスラームの教えに適合しない支配者の交替を訴えたのだった。
  師によればまた、イスラームやその他の一神教と民主主義は、完全に一致することはない。神が制定するそれぞれの教義や規則に絶対性を見出そうとする宗教と、人間の自由意思を根本におく民主主義の思想は相容れない。しかし、イスラーム世界の諸国家の経験から、公共的事業の管理・運営に関する民主主義的組織は整備できる可能性がある。
  以上のことから、モハッゲグダーマード師は、ムスリムにとって民衆に依存する類の統治権を受け入れ、民衆に基盤を持たない統治権を拒否する鍵はイスラームの教えのなかにあるという民主主義的思考の潜在性、そしてイスラーム諸国のこれまでの経験から、民主主義的組織を創設しそれを運営していく能力の可能性を主張した。師はまた、イスラーム世界のそのような可能性などにも関わらず、欧米は民主主義の守護者と自負して中東に進出し、軍事行動を正当化していると述べた。イスラーム世界の人々は、欧米各国が人権擁護と民主主義を推進しているかのようにふるまいつつ、民衆の中から出た運動や組織を抑圧していることを目にし、彼らは実は自らの経済的利益を追求しているとして懐疑心を抱かざるをえないのであると述べた。
(COE研究指導員 中村明日香)

『2004年度 研究成果報告書』p508-515より抜粋