21世紀COEプログラムによる活動記録

2005年度 第3回研究会

日時: 2005年7月8日(金)18:30~20:30
場所: 同志社大学 今出川キャンパス 扶桑館 CISMOR会議室
タイトル: 第9回イラン大統領選挙の諸相:予想と実相の乖離に寄せて
講師: 吉村 慎太郎 (広島大学)
要旨:

  今回の発表で吉村氏は、氏が実際にイランで行なった現地調査などを基に第9回イラン大統領選挙結果分析を行い、多くの予想に反してアフマディネジャード氏(現テヘラン市長)が当選に至った経緯を明らかにした(注1)。同氏は今回、2005年6月17日の第1次投票直前から24日の決戦(第2次)投票前までテヘランに滞在し、選挙データ収集とテヘラン大学やその他の研究・教育機関、政府機関、投票所で主にインタビューによる調査を実施した(注2)。
  吉村氏はまず、選挙予想として挙げられていた、1)投票率の低下、2)決戦投票への移行が予想されていた、3)ラフサンジャーニー師(前大統領)優位、4)決戦投票におけるラフサンジャーニー師勝利について言及し、これらの予想が崩されていった過程を説明した。
  投票率の低下は、他の候補に比べ知名度の上では群を抜くラフサンジャーニー師の得票につながるはずであった。
  吉村氏は、予想された投票率を大幅に上回ったのには、各立候補者の支持団体によるテレビなどを通じた投票への呼びかけ以上に、皮肉にもブッシュ米大統領が一役買っていたと言う。ブッシュ大統領はイラン大統領選挙投票の前日、同選挙を、不正選挙であり民主主義の基本的要素を欠いているとして非難する声明を発表した(注3)。これに触発されたイスラーム共和党政権指導部が国民に投票を働きかけたり、マルジャ・ハッジャリヤーン師、キャディーヴァル師、モンタゼリー師など著名な法学者が選挙参加を表明するなどの動きがあり、さらに当日投票時間が夜間4時間延長されるなどの調整も行われた。
  イラン大統領選挙至上初の決戦投票へのずれ込み予想は、各政治団体が連携して統一候補を立てることに失敗したこと、それによって候補者が乱立する結果になったこと、また、ラフサンジャーニー師の政治的影響力の陰りを理由としていた。吉村氏によれば、この上記2)のみ予想が現実化した。
  第1次投票においてのラフサンジャーニー優位説は、他候補者に比較した場合の知名度の高さなどが主な理由とされていたが、18日選挙開票結果速報の時点で覆された。18日の午後以降の開票で、エスファハーンなど大都市の大票田においてアフマディネジャード氏が得票を伸ばし、キャッルービー師を抜いて2位につけた(注4)。
  決選投票においてのラフサンジャーニー優位説は、全体的な投票率の低下と改革支持派がラフサンジャーニー支持に回ることが考慮されて言われていたことであった。だが、内務省発表では投票率の大幅な低下はなく、改革派は自らの推す候補を失って棄権したことも考えられ、アフマディネジャード氏が3州で大幅に得票を伸ばし、結果大差で当選を決めた(注5)。
  吉村氏は、街頭インタビューや、選挙運動とテヘラン市民の反応の観察などを通じて、上記4)の予想はかなり修正可能であったと述べた。アフマディネジャード氏の清貧さ、未知数ではあるが氏の経済改革政策への期待は、貧富の差の拡大とそれに伴う(特に富裕層の)道徳観の退廃に苦しむ一般市民の支持を確実に集めていたと言う(注6)。その意味では今回の選挙は、イラン社会の現実をよく反映していた。だが吉村氏はまた、選挙自体は一過性のものであり、新大統領がプラグマティックなイラン国民の支持を継続して受けるかはこれからの政治に関わっている、と述べ発表を終った。
  ディスカッションにおいては、今回の選挙結果をヴェラーヤテ・ファキーフ体制の停滞と見るか成熟と見るかなどをめぐって活発な議論がされた。
(注1)    アフマディネージャード氏は、48歳で現職のテヘラン市長。革命ガード出身。
(注2)    イラン大統領選挙では、憲法第117条でいずれの候補者も投票者の過半数の得票に達しない場合、決戦投票が実施され大統領が決定されることが定められている。 

イラン・イスラーム共和国基本法(憲法)第117条(抜粋)「大統領は、投票者数の過半数以上の得票によって選挙される。 いずれの候補者も過半数を獲得できない場合、次週の金曜日に第2次投票が実施される。第1次投票で最も多くの票を獲得した候補者と時点の候補者のみが、この第2次選挙に出馬する。」
(注3)    The Washington Post, June 17, 2005。
(注4)    1位のラフサンジャーニーの得票は約615.9万票、アフマディネジャードは約571万票であった。
(数字はイラン内務省発表)
(注5)    第1次投票における投票率は62.7%、第2次では59.8%(イラン内務省発表)。アフマディネジャード氏は、チャハール・マハール ヴァ バフティヤーリー、ホラサーネ・ラザヴィー、ファールス各州で大幅に得票を伸ばした。有効票のうち、62.5%がアフマディネジャード氏に投じられ、ラフサンジャーニー師は36.6%であった。
(注6)    アフマディネジャード氏は、経済政策として、富の公平な分配を目指し、公務員の給与増額、農業改革などを公約に掲げていた。
(COE研究指導員 中村明日香)

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