21世紀COEプログラムによる活動記録

2005年度 第4回研究会

日時: 2005年7月29日(金) 18:30~20:30
場所: 同志社大学 今出川キャンパス 扶桑館1階CISMOR会議室
タイトル: Muhammad Khatami, "Golge insan dar kame ajadhaye doulat"の講読会
講師: 富田健次 (同志社大学大学院神学研究科)
要旨:

 本回においては、イラン大統領ムハンマド・ハータミー師の論文集における(『都市の現世から現世の都市へ:西欧政治思想シリーズ』) からの西欧思想に対する論点を富田氏が紹介し、参加者全員で議論した。以下は、その要約である。
  同論文中でハータミーは、人間の思考・発想と社会の展開の仕方には相関する密接な関係があるとし、近代ヨーロッパ社会を生んだ中世ヨーロッパ思想を代表する人物として、マキアヴェリ、F・ベーコン、デカルトの思想に触れ、ホッブズの『リヴァイアサン』について詳述している。また、ハータミーは彼らの思想を西欧哲学史として客観的に紹介しつつも、その手法に「シーア派的見解」が見られる。
  ハータミーの西欧思想への見方は、以下のマキアヴェリ、ベーコン、ホッブズへの言及に集約される。1)マキアヴェリの思想は、現世をその思考の基盤とする人間の誕生を示唆した。2)ベーコンの実証主義と、経験的知識、科学万能主義は、現世における生のための知識の重要性を示唆した。3)ホッブズが説いた理性の観念は、現世における人間の安全、そして福利を達成するための道具となることであった。つまり上記の3段階を経て、西欧の思考は、ロックの思想によって新しい政治的枠組みであるリベラル・デモクラシーを据えることまでに発展した。
  西欧では民族主義とこれへの権力の委任、個人主義、リベラリズムの価値の重要視など、全てが現世を重視し、人間の個人的福利を実現するために利用されるようになった。このため理性と知識もまた、その対象である現世に従属することになる。
  以上のように、近代西欧世界の理性への鋭い見解がハータミーの論には表わされる。これは他のイスラーム世界の識者たちからしばしば指摘されることであるが、彼の主張の中にはシーア派的側面が見られる。例えば、現世的・物質的価値への嫌悪、権力者や支配者への言及がそれにあたる。後者に関して、ホッブズの絶対君主とは、理性的思考の産物で、申請さと超越性の側面を持たない。彼らは、封建制と神聖支配に代わるため、新しい階級の人間が彼らの象徴的力をかりようとした作用によっても起こり、上位に置かれたという意味では、人間を超越した力を代表するのではなく、完全に地上的な人間であると言っている。
  ディスカッションにおいては、主に現代のイラン政治、社会を中心に、支配者像や支配の正統性ということに論点が置かれた。
(COE研究指導員 中村明日香)